青年見聞録

第 1 章 - CURSE

3.
アベルが旅立ってから3日目。クシャールはモロクのスフィンクスの前で横になっていた。スフィンクスと言うより、巨大な猫の様な遺跡の前で、クシャールは目を瞑っていた。

アベルと一緒に飲んだ覚えはある。それ以来、二日間は地獄の様な時間を過ごした。
クシャールは、禁煙と禁酒を誓いを守っていた。微かな毒の匂いも見逃さない為に、香りや匂いのきつい物は避け、感覚を鈍くさせる酒も避けていた。
しかし、公式的な場や仲間との打ち上げでは、一杯くらい飲むふりもしていたが……。アベルと一緒に飲んだ時は、どうしたんだろう……
飲酒の影響を頭ではわかっていたが、自分で経験したのは、これが初めてだった。

“ギルド一の真面目な青年! ここで何してるんだい? 臭っ! 酒臭っ!?!?”

吐き気と頭痛を感じている彼に、ギルド幹部のイスミールの声が聞こえた。そして……

“酒の飲まれやがったな! まぁ、たまにはいいじゃない? バカっぽくって!”

一番苦手なジークレインだ……

言い訳をしようとして、クシャールは体を動かそうとしたが、水を吸った綿の様に体は重く、思い通りに動いてくれなかったので、クシャールは諦めた。
この酷い三日酔いが取れるまで、ここで横になっている事にした。
変に煽られて、アベルに負けない為に飲み続けた自分が悪いだけだと思うクシャールは、二人の声を聞きながら横になっていた。

“っていうか、任務があるんじゃなかったっけ? もう二日も前に受託したはずなのに、そんなにのんびりしてていいのかな?”

“任務? へえ~、任務を受託したその日に、酒に飲まれたって事? やるね!”

“今度の任務って、イスミール、お前とも関係あるらしいけど……何か知らないか?”

初耳ですよ? と、言っていそうな表情で、首を傾げるイスミールに、ジークレインはギルドマスターがクシャールに頼んだ任務の事を説明し始めた。
二人は、クシャールが話を聞いているとは思わずに、無防備で話をしていたが、クシャールは横になったまま話をちゃんと聞いていた。

“つまり、狙いは……”
クシャールは空を見上げた。砂風が吹いていたが、青い空はそこにあった。三日酔いは治まっていたけど、頭痛は続いていた。

“ガアァーーーーーーーーーーッ!!!!”

空に向けて叫ぶクシャールは、スフィンクスの口の中に突っ込んだ! スフィンクスの迷路なんて、目を瞑ったままでも行ける程に慣れていた。
飛び掛ってくるドレインリアーと死しても尚、操られているモンスターを片っ端から潰しながら、ダンジョンを進んで行った。

“ハァ? 何故、そんな無駄な仕事をさせるんだ? ピラミッドの中に補充する物なんて無いだろう。”

右から襲い掛かって来るマーターの首にカタールをねじ込ませる。

“もし必要だとしても、それはビギナー向きの任務だろう? クシャールにそんな任務って……ありえないな。”

頭痛と共に、イスミールの言葉が頭の中に響いてくる。
ゼロムが振り回す石材を蹴っ飛ばすと、ゼロムの姿勢が崩れ隙が出来た。
その隙を見逃さずに、ゼロムの額にカタールを刺し込む。そのまま、後ろから襲い掛かって来るドレインリアーにゼロムを投げつけた。
カタールに額を刺され、投げ飛ばされたゼロムは、額から黒い液体を噴き出しながら、ドレインリアーと共に床に落ちた。

“ギルドマスターはどうしてクシャールを苛めるのかな? クシャールの腕は最高レベルだよ! それに相応しい任務を任すべきだよ! ギルドマスターの考えが理解できないな……”

“イスミール、それは全部ギルドマスターの読みなんだよ。そういうギルドマスターへの怒りが、クシャールを強くしたのさ。ギルドマスターに認めてもらう為に、強くなったって事。
ギルドマスターはそこまでを先読みして、クシャールを煽った訳。怒りが少年を大人にしたんだ。”

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