Episode Ⅰ - ルーン - ミッドガッツ王国

神聖ルーン - ミッドガッツ王国は、千年以上を続く王政国家だ。
首都プロンテラ(Prontera)を中心に、一つの巨大な王国として、ミッドガッツ大陸に存在している。
現在のルーンミッドガッツを統治しているのは、トリスタン3世。

宗教的には、オーディンを奉る大聖堂がプロンテラにあるが、
その他にも様々な神々への信仰を認める多神教国家である。

大陸の中央に位置している事で、貿易が盛んな商業都市としても名高い。

かつては、ソードマンを希望する若者が、プロンテラに設けられていた剣士ギルドを訪れていたが、
現在は、剣士ギルドを、衛星都市イズルードに移転させた為、
プロンテラには、ナイトとクルセイダー転職の為の施設が設けられている。

北西にある魔法都市ゲフェンには、
エルフ達の秘宝が眠ると言う「ゲフェニア」の伝説が伝わっている。
ゲフェンの真ん中にそびえ立つ「ゲフェンタワー」は、魔法都市ゲフェンのシンボルであり、
魔法使い達の聖地である。

南西にある砂漠の都市モロクは、一見寂しい町の様に思える。
人々の往来が少ないと思われがちだが、実はシーフギルドが設けられており、
シーフを希望する人々が密かに行き来している。
また、モロク周辺のソグラト砂漠のどこかに、
アサシンギルドがあるという噂を聞いたアサシン希望者達が、
ソグラト砂漠を横断している。

北東の山岳都市フェイヨンは、アーチャーの都市として有名だ。
山岳に囲まれたお陰で、狩り術や弓術が発達している。
特に、高い威力を誇る「角弓」は、フェイヨンの代表的な名物である。

南東の港街アルベルタは、海上貿易が盛んでいる街だ。
それは、プロンテラまでの陸路が険しかったが為に、
海路の開拓に早くから力を入れてきたお陰である。
たまに、海賊に船が襲われる事もあるが、そういった危機を乗り越えて、
このアルベルタに着いた旅人は、アルベルタの明るく暖かい雰囲気を
愛するに違いない。
また、大陸の商権の3割を独占している、商人ギルドがあり、
商売を学び、一攫千金を狙う若者で賑わう街でもある。

国境都市アルデバランは、真ん中にある時計塔で有名な所だ。
かつて、時計職人が多かったこの街では、作り捨てられた数多くの時計に魂が宿り、
時計塔に住み着くようになった。彼らは自らを修理し、増殖する様になったのである。
予想もしななかった出来事で、ダンジョンを抱えてしまった街……
多くの冒険者が、噂を耳にして、この時計塔に集まってくるが、
未だに塔の中は謎に包まれたままである。

青年見聞録

第 1 章 - CURSE

1.
“…こ…殺し……て……”

見た事のない真っ黒な刃を持つ長い剣を持つ手が震えていた。半分以上も剥がれてしまった彼の鎧が、今までの戦闘の激しさを物語っていた。
血を染み出す彼の指は、それでも剣を放してはいなかった。
彼の声が、もう一度聞こえた。

“…もう…殺してくれ……僕を……”

彼は崩れ落ちるように膝をついた。剣にすがって、再び体を起こそうとする彼の険しい顔が、今彼に襲い掛かっている苦痛がどれだけのものかを物語っていた。
いつも、眩しいくらいの笑顔で俺に光を見せてくれた者。ヴァルキリーに認められ、ロードナイトになった時の彼は……消えていた。
俺は、カタールの刃を彼に向けた。

“…お…願い……殺して……くれ…………”

“本当に死にたいのか?”
俺の質問に、彼は血塗れの顔で微笑んだ。

“あぁ…死にたい…死なせてくれ……”

彼の返事とは裏腹に、彼の剣は俺の心臓を狙って来た。カタールで彼の剣を交わし、後ろに下がった。
涙目の彼、アベルは自分の剣を見た。こんなはずがない、違う! 自分のやった事じゃない! と、彼の目が訴えていた。

“ご……ごめん…ごめん……”

風から涙の味がした。俺は、アベルがこんなに泣き虫だとは知らなかった。
いや、こんなに何かを求めるアベルを見るのは初めてだった。
いつも、生と死に狭間で生きる俺だが、殺さないでくれと泣き叫ぶ者に死を与えてきた俺だが……、今回は……
死なせて、と言うアベルの願いを叶えてやる事は出来なかった。

“やめろっ!!!!”

彼の叫びと同時に、再び彼の剣が俺を狙って来た。
もう、疲れてるだろうに、アベルの体は意思統率が出来ず、剣に振り回されている様に見えた。まるで、その剣がアベルの命を吸っているかの様に……
このまま放置すれば、アベルの命が危なくなる。その剣を取り上げなければ!!
剣……?
そうか、その方法があった。
黒い刃の呪われた剣は、再び俺の心臓を狙ってきた。

グサッ!

“クッ!”

“クシャール!!”

驚くアベルの顔が見えた。
俺は、胸に刺された剣を握り、自分の方へ引っ張った。体に焼けるような痛みが走り、溢れ出すアドレナリンが感じ取れる。近くなったアベルに手を伸ばした。
まだ震えているアベルの手……。彼の手から剣は離れた。
俺の名前を叫ぶアベルが見えたが、そのうち目の前が暗くなり、アベルの声も遠くなった。
これで、いい。もう、あの怪しい剣が、死にかけた者を襲う事はできないだろう……

2.
“クシャール。”

“お呼びですか、ギルドマスター。”

暗い室内。選ばれた者以外の出入りは禁じられている部屋。
大陸の秘密の半分が隠されていると言われる所。
砂塵の中に立っているアサシンギルドの地下部屋で、クシャールは自分を呼んだ人の前に立っていた。

“先日、ヴァルキリーに会ったと聞いたが……”

“……誰でも会えるのでは、ありませんか。”

“ふっ、誰でも会える訳ではないだろう?”

“……と……仰いますと?”

“冗談だ。褒めたつもりだが、伝わらなかったかな? 君は謙遜し過ぎだ。たまには、素直になったらどうだ?”

“はい……。まさか、ヴァルハラの事をお聞きになりたくて、私をお呼びになったのですか……?”

“それは無い。君がアサシンクロスになってから、一度も任務を遂行していない、と聞いてね、久々に任務をやって貰おうと思ったのさ。”
にやにや笑いながら、のんびりと喋るアサシンギルドのギルドマスターに、クシャールは疑いの目を向けた。

“……また、どんな面倒な事をさせるおつもりなのでしょう……”

“面倒な事だと! ハハッ! 俺も相当信用が無いな! この俺が君に面倒な事をさせると思うのか? 悲しい事だ!”

“……では、どういった任務なんでしょうか?”

“チッ! 態度が悪いのは相変わらずだな。「下命ください。」だろう? クシャール……、アサシンクロスになったからって、俺に逆らう気なのかね?”
クシャールは、いつかこの男が自慢げに伸ばしている、あの長い髪を切ってやると誓いながら、視線を落とした。

“……下命ください。”

“よーし、よし! それでは任務だ。今から君に渡す物をピラミッドの中に隠して来てくれ!”

“……!?”

“凄い任務だと思わないか? きっと君じゃないと出来ない。これは、我々アサシンギルドの未来の為の重要な任務なのだ!”

“…………”

“クシャール!”
そのまま出ようとするクシャールを、ギルドマスターが呼び止めた。
“存命! と、返事をしないのか?”

“……存……命”

バタン。

“気取った男だ……”

“大丈夫ですかね?”
いつの間に、ヒュイがギルドマスターの側に立っていた。

“ハァ? 何がだ?”

“マスターは、いつもクシャールを苛めてらっしゃるから、彼の不満も溜まっているかと……”
心配そうな顔で話していたヒュイは、ギルドマスターの返事を聞いて唖然とするしかなかった。

“だって、面白いじゃないか?”

 

バターン。

“チクショー!”

ガシャーン。

“チクショー! チクショー!!”

バシッ!

“誰だ!”

部屋にある調度品を蹴りながら、怒りを発散していたクシャールは、誰かに頭を叩かれて叫んだ。
だが、叩いた人を見た瞬間……固まってしまった。

“ジ……ジーク先輩!”

“どういう事だ?”

“……すみません。”

“酒場のマスターがお前が騒ぐから、うるさくて商売にならないと苦情が来ていたぞ? 怖くて商売が出来ないと。”

“すみません。音が漏れる事までは……考えておりませんでした。”

ジークレインは、真っ青になって固まっているクシャールの肩に腕を乗せて、話を続けた。
“お前がギルドのマスターから可愛がられている事はわかっているがね……”

“……”

“だからと言って、ギルドの資産を勝手に壊しては……いけないだろう?”

ジークレインのお陰か、落ち着きを取り戻したクシャールは、自分のやった事を振り返ってみた。木の椅子が折れ、テーブルはバラバラになっていた。

“椅子とテーブルは弁償させすれば、済むと思うが……”
ジークレインは、拳を上げながら言った。

“俺に向かって怒鳴ったのは……”

“クシャール! ここに居るって……?あれ?”

助かった! クシャールは、ドアから入ってくる男を見て思った。ジークレインは、上げていた拳をそっと元の場所に戻した。
恐る恐るアベルが部屋の中に入って来ると、ジークレインはアベルの肩を軽く叩いた後、部屋から出て行った。

知る人ぞ知る、砂漠の都市モロクの地下酒場。
その隅に座っているアベルは、クシャールに直視出来ない微笑を放っていた。淡いブロンドの髪と真っ白な肌を持つ彼の微笑みは……クシャールには眩し過ぎた。

“でさ、さっき、どうしてジーク兄ちゃんが拳を上げていたの?”

“……。それより、今日は何しに来た?”

“来てもいいだろー! でさー、クシャール、僕の話聞いてる? 会話ってのは、二人でするものでしょ? これじゃ、独り言じゃないか。”

“ちゃんと聞いてるよ。返事もしているだろう? 今・日・は・何・し・に・来・た・ん・だ・?”

アベルと自分がいくら仲のいい友達と言え、彼はナイトだ。ナイトという身分として、この地下酒屋に出入りするのは問題あるだろうに……
あ……アベルは天然だから例外か……
クシャールは笑いながら、アベルの目を見た。

“やっと笑顔を見せてくれたね! 今日来たのはね。実は……、頼みがあってさ!”

“頼み?”

“うん! 行ってみたい所があるんだ!”

“旅行か? 仲間が欲しいのか?”

“うん! 一緒に来てくれる?”

期待に目を輝かせるアベルに、「ああ、問題ない。」と返事しようと思ったクシャールは、先ほどの任務の事を思い出した。

“……。任務がある。”

クシャールの返事に嫌な顔もしないアベルは、ニコニコ笑いながら話した。

“わかった! さっきの騒ぎは、任務が気に入らないからだったんだ! でしょ?”

“ああ。そうだ!”
吐く様に返事したクシャールは、酒を一気に飲み干した。

“ふふ……そうだよね。でも、その気に入らない任務のお陰で、うちら二人が出会ったじゃない。”

“………”

“ピッキの羽毛を集めているアサシンって……初めて見た時は…笑いが止まらなくて……ふふふ。”

“……やめろ。”

“そう言えば、竹筒を集めているアサシンも……珍しいよね~”

“……やめてくれ。”

“そうだ! ソヒーの着物はどうして盗んでいたの? それも、任務だったの?”

“やめろって言っただろう! そうさ! ピッキの羽毛を取る為にしゃがんでいて、お前にぶつかったのも俺だ! 竹筒を集めて、日陰で乾かしていたのも俺だ!“
“モンスターから着物盗んで、綺麗に洗ってはアイロンまでかけて、マスターに届けたのも俺だよ!! 全部認めりゃいいんだろう? ハァ…ハァ……”

一度に喋りすぎたせいで、息が荒くなっているクシャールを見て、アベルは微笑んでいた。

“ね、スッキリしたでしょう? 不満を我慢せずに言えば、楽になるものだよ。”

アベルは隣の椅子をトントンと叩き、クシャールに座ってと言った。
クシャールは天真爛漫なアベルを見て、アベルに何度も救われた事を思い出した。そう、いつも俺を落ち着かせてくれた、今みたいに……
今? 今、俺は救われた? クシャールは、周りからの変な視線を感じ取った!
今、自分はアベルのペースに乗せられ、恥ずかしい過去を暴露してしまったじゃないか! それなのに、アベルに救われたと思った……のか!
クシャールがアベルに一言を言おうとした瞬間、アベルが手を伸ばし、クシャールの頭をなでた。

“任務、頑張って! それに、クシャールが帰ってきたら、僕はロードナイトになっているはずだよ。一緒に行きたかったのに~”

“え?”

自分の頭をなでるアベルの手を振り放そうとしていたクシャールは、意外な話を聴いた瞬間、固まってしまった。どこか行きたいって、それは……

“アサシンクロスの友達と一緒に遊ぶには、ロードナイトの方が連れ合いが合うじゃん? 僕、頑張ったよ! 応援してくれないの?”

“そうか……気をつけて…行って来な……”

“やった! じゃ、今日は飲もう! マスター! 一番強いエールをください!! クシャール、今日は寝かさないよ!!”

元気よく注文するアベルは、彼の言った通り、朝まで酒を飲ませ続けた。

- 続く

*この青年見聞録に登場する、人物や地名はフィクションです。

料理王オルレアン

○月 ○日 プロンテラ宮廷料理人 試験日

シャルル・オルレアン。 17才。男。
彼はプロンテラ宮廷料理人試験を受ける為に、遠いフェイヨンの田舎から上京してきた。

“ヤッベー! やっぱ首都はすごいね! ピピ、行こう!!”

首都に来て、すごいと素直に感心する少年。ピピと名付けられた大きい犬……。
このステレオタイプの少年が、物語の主人公である。

“あれ、これはこれは! オルレアンじゃないか?”
“アンドレさん!!”

初めて首都に出た主人公が、偶然、道端で知り合いに出会う確率は……?
0%に限りなく近いのではないか? それでも、会ってしまうのが、主人公だ!

しかも、昔の仲間、知り合い、あらゆる人が主人公の行く先々には配置されているのだ。
皆、それらしい名前を持っているのは当ったり前!
残念ながら、このアンドレさんは、 1回限りのエキストラ。

“プロンテラには何しに来たんだい?
もしかして、あの宮廷料理人試験を受けに来たのか?
そうだよなー、お前は料理が得意だったしな……”

質問から結論まで自己完結してしまうエキストラさん。
そう、エキストラは登場時間が短いので、最大限の台詞を言う為には、
自己完結型のキャラじゃないといけないのだ!

“うん!! 僕、絶対に宮廷料理人になって見せますから!!”

少年は自分の顔の 1/2にもおよぶ瞳の中に、無数の光を発しながら返事をする。
すると、なんの関わりもない周りの人々が、少年を眺め感心する。

“おー、すごい自信だな。”
“あら、まあ~健気な事!”
“なれるだろう! 頑張って!”
“わいわい~”
“がやがや~”

その瞬間! どこからか、耳に障る、気持ちの悪い声が聞こえてくる!
そう、こういう時に決まって登場するのは、主人公のライバル! もしくは、悪者なのだ!

“君には宮廷料理人試験の合格は無理だろう。”

声は聞こえるけど、声の持ち主はすぐには現れない。
周辺のエキストラの人々が、少年漫画の法則通り、ザワザワし始める。
すると、「ジャーン!」と、耳には聞こえないけど、
目に見える効果音と共に、主人公より1.5倍は背が高くて、いい体で、
しかも甘いマスクの完璧な少年が登場する。

ここで、少年漫画の法則について、説明しよう。
同一条件で登場する人の、年と性別による見分け方だ!

少年の場合 - 昔は友達だったが、今はライバル
中年の男の場合 - 主人公のお父さんの親友だったが、今は悪者/ライバル
人間じゃない場合 - ひたすら悪者
同じ年頃の女性の場合 - 主人公のライバルだったが、時間と共に主人公が好きになる
年上の女性の場合 - 主人公のライバルだったが、時間と共に主人公が好きになる
年下の女性の場合 - 主人公のライバルだったが、時間と共に主人公を好きになる
年上/年下/年頃の女性だけど、ブサイクな場合 - 終わるまでずっと、ライバルのまま

今登場したのは、17才の少年、つまり……ライバルだ!
オルレアンは台本通り叫んだ!

“君は!! キエル!!!!”

ただ、名前を呼んだだけなのに、周りのエキストラは全員、驚く。

“まさか、最年少宮廷料理人になったという、天才少年?”
“国王がメロメロになったという、神の手を持つ少年?”
“料理の神様と呼ばれる男が、あんな年若い少年だったとは!!!!”

急に、キエルの後ろに燃え上がる炎の特殊効果が広がる。
そして、不吉な音楽が BGM として流れる。

“ふふふ…… 10年ぶりだな。オルレアン。
君は、10年前と何も変わってないな……”
“キエル!!!!”

10年前と比べ何も変わってないと言うキエル。
これは、成長期の少年が読む少年漫画の中では、一番酷い侮辱に当たる。
オルレアンは当然、怒る。

“お前っ!! 汚い手を使って、宮廷料理人になったくせに!! 恥を知れ!!”

“ほう? 汚い手?”

キエルは正々堂々と試験に合格し、宮廷料理人になった。
しかし、主人公は侮辱されると、根拠のない事でも相手を攻めなければいけない。
その法則に従い、デタラメを言うオルレアン。
少年漫画の主人公は、色々と汚いものなのだ。

“俺としては、正々堂々と出した結果だと思うんだが。”

“何だとーっ!”

“納得が出来ない様だね。
なら、料理で勝負しろ、オルレアン! 三日後だ! 三日後を待ってるぞ!
君がどんな料理を作るか楽しみにしている! ふふふっ……”

子供の様な主人公とは違って、大人っぽいキエル。
キエルの正論に対し、不思議な事にエキストラの皆や主人公は敵意を感じている様だ。
オルレアンと彼の犬ピピは、怒りに満ちている。

 

急に背景が変わり、ここはキエルの部屋。

未成年のくせに、ワイングラスを片手に持って、優雅に窓の外を眺めながら呟くキエル。
大丈夫、少年漫画の中では、全部が許容範囲内だ。

“オルレアン、待っていたぞ。今まで俺に挑戦した奴らは……クズだった。
俺と勝負が出来る奴は、お前だけだ! さあ、お前の料理をみせてくれ!!”

小学校を卒業してすぐ、宮廷料理人になったキエル。
今までの挑戦者、とは言っても皆プロの料理人だ。
彼らがクズだったと言うキエル……
キエルが唯一認めるオルレアンの腕は、どれ程のものだろうか!
いや、その前に、キエル!
君は、プロの料理人をクズだと豪語するが、ずっと母の料理を食べてきたんじゃないのか?
もしかして、母の料理は世界一なのか!?

 

再び背景は変わり、市場にいるオルレアン。

キエルの挑発に乗せられ、怒りで顔が真っ赤になっている主人公。

“魚? にく? ……違う! こんなんじゃない!
こんな平凡な材料で、奴に勝てる訳がない!
一体……何を作ればいいんだ……何を……?”

狂った様に何度も自問自答を繰り返しているオルレアン。
その瞬間、低い声が聞こえてくる!

“特別な料理を求めているのか?”

低い声が聞こえた方向に、オルレアンは熱い視線を投げる。
すると、いきなり画面が 2等分され、主人公と低い声の持ち主の熱い瞳がクローズアップされる。
オルレアンは、主人公の得意技である独り言を言う。

‘ 汚い格好……真昼から酒ビンを持っているけど、鋭い目付き。
そして、小麦粉の醗酵に最適と言われる温かそうな手のひら。
うさんくさいけど、ただ者じゃない! ’

男はにらめっこに疲れたのか、ベタッと座り込んだ。
空っぽになった酒のビンを転がしながら、男は話を続けた。

“ 50年前、プロンテラの宮廷料理人試験に、お前の様に料理への熱意に満ちている若者が
やって来た。
彼は、ライバルの料理を圧倒する素晴らしい料理で、宮廷料理人になったのさ。
なのに料理の道を究めると言い、せっかくなった宮廷料理人の座から降り、
立ち去ってしまった。”

話している男の目は燃えていた。オルレアンは慌てて聞く。

“まさか!! あなたがその 50年前の……”

オルレアンの質問を遮って、男が答えた。

“俺は、その時……そこの警備兵として働いていた。”
“ハァ?”

男は、ガッカリするオルレアンを見て呟いた。

“しかーし!  50年前の料理が、復活するとしたらどうだ?”
“ガーン!!!!”

オルレアンは、‘ ガーン ’と口で言ってしまった。
周りの人々が、オルレアンが口で効果音を言うのを見てクスクス笑い、
オルレアンの顔は真っ赤に染まった。
オルレアンは気を取り直し、男の肩を掴んで、問い詰めた!

“何だ! その料理とは!! 50年前の料理って一体、何なんだ!!”
“それは……”

男の後ろに 50年前の光景が現れ始めた。
オルレアンは、男の肩を強く揺らしながら叫んだ。

“真昼から酒を飲むから、幻覚が見えるんだろ?
忙しいから、回想シーンはやめて、早く言えよ! 早く!!”
“あぁ? ……回想シーンが始まるとこだったのに……。
まぁ、教えてやろう。その料理とは……”
“そ、その料理とは!?”
“それは……バフォメットの頭の煮込みスープだ。”

先程から、二人の周りを通っていた人々が、急に足を止め、驚きの言葉を二人に投げた。

“バフォメットの!!!!”
“頭の!!!!”
“煮込みスープ!!!!”

そして、何もなかったかのように、人々は二人から目を逸らし、何処かへ足を運んだ。

“その料理の材料は! 材料はどこにあるんですか?”
“迷いの森にいるバフォメットを倒し、 1万分の1の確率で得られると言う
マジェスティックゴートを手に入れて、それを 20代女性の頭に 5時間被らせた後、
21時間、 97.9℃のお湯で煮込み、塩とコショウで味を付け、ネギを入れると完成だ!”

オルレアンは男の言葉を聞き、絶望の悲鳴を上げた。

“チクショー! バフォメットやマジェスティックゴートまでは何とかなるけど……、
20代の女性って!!!!”

“その通りだな!!”

口を閉じると同時に、背景は迷いの森の入口で、オルレアンは完全武装をしていた。

“……最近の展開は早すぎなんだよなー。
もうちょっとゆとりを持ったほうがいいのに……”

迷いの森に入ると、オルレアンの前にドラゴンテイルとポイズンスポアが現れた。

“雑魚は失せろ! バフォメットは何処だ!!”

オルレアンが剣を振り回すと、大地が真っ二つに割れ、空から雷が落ちて来た。
その桁外れの威力に驚いたモンスター達は、絶望の嘆きを吐き出した。

“な…何という力だ……!!”
“ま、まさか!!!!”
“迷いの森の平和は終わったのか!”

あっという間に、迷いの森を滅ぼしたオルレアン。
彼の指に光っている指輪からは、何だか不気味な気配が感じられる。

“この「メタメタに強い、透明ドラゴンの指輪」をなめるんじゃないぞ!”

- 豆知識 1
「メタメタに強い、透明ドラゴンの指輪」(名詞)
世界の 3大宝物の一つであり、「絶対指輪」、「ニーベルングの指輪」と共に、
時空を超える力を持っているという超すごい指輪。
ラグナロクの世界では、この透明ドラゴンの指輪は 3等分され、
ホルグ…、アンソ…、アラ…という匿名の 3人が分け合う事になった。
この指輪の欠片を 3つ手に入れ、完全な一つの指輪にした者は、
世の中に怖いものが一つも無くなると言われている。

迷いの森をあっちこっち回り、全てを破壊したオルレアン。
最後の地域に移動するワープリンクの前に立っていた。

“ここに、バフォメットがいるのか?”

ワープリンクを足で踏むと、オルレアンの前に真っ暗な異界の扉が開き、
彼はその中に吸い込まれるように入って行った。
そして、彼が目の当たりにしたのは、血塗れになって横たわっているバフォメットと
その上に立ち、戦利品であるマジェスティックゴートを手にして笑っている
一人の女性の姿だった。

“ま、まさか、一人で??
それに、 1万分の1の確率だと言う、マジェスティックゴートまで??”

そんな事を考えながら、オルレアンは立ち尽くしていた。
すると、彼女がオルレアンに話しかけてきた。

“冒険者?”

“……”

妙な力を感じさせる声だった! オルレアンは首を上下に動かして返事をした。
彼女は、しばらくオルレアンを見つめた後、口を開いた。

“ちょ……蝶の羽を……ください…… 5時間も迷って……”

- 豆知識 2
蝶の羽がない場合、自力で迷いの森を脱出するか、一度戦闘不能になって戻るか……
選択しなければならない。

オルレアンは少し考え込んだ。
そして、オルレアンはこの世で一番不気味な微笑を浮かばせて言った。

“マジェスティックゴートを譲ってくれたら、蝶の羽を 10枚あげる。”

- 続く。

世紀末カプラ伝説

これは、遠い昔からカプラセンターに伝わる、とても信じ難い伝説の様な話である。

山岳の都市、フェイヨン。
カプラサービスが撤去されてから、防御線は崩れ、街まで侵入してくるモンスターにより
人々の生活は根本から破壊されつつあった。

廃墟と呼べる程にボロボロになっている家と畑や田んぼが、この街の状況を物語っていた。
乾いた風だけが騒がしい街には、避難も出来ないくらい年をとった老人達が
座り込んでいるだけだった。

いつ、フェイヨンの深い地下から、魔獣達が襲って来るかわからない日々の疲れが
老人達の顔から読み取られる。

“うん?”

座ったまま、うとうとしていた老婆は、ふと人気を感じて、目を覚ました。
老婆が目にしたのは、黒いマントを被っている大きな人の姿だった。
その体を全て隠すには短いマントの下に、白いエプロンがチラッと見えた。
それを見た老婆は、何度も目を擦りながら、不思議そうに呟いた。

“カプラ職員のお嬢さん達は、もういないはずなのに……
どうして白いエプロンが見えるんだろう。”

彼女の呟きに、隣の老人が言う。

“年のせいだよ。ボケてしまっているんじゃ? 早く目を瞑って寝たらどうだ?
夜になったら、寝られないぞー!”

“そうね、私もボケてしまう年ですものね……”

老婆は、自分が目にしたものを無視して、再び目を瞑り、眠ろうとした。
大きな人は、街にある酒場の方へとすたすた歩いた。
ドアを開ける音が聞こえ、酒場の隅に酒に酔ったまま座っていた男が、ドアの方を見て呟いた。

“ここには売り物なんて、残って無いよ。”
“……”

酒場の中に入ってきた大きな人は、その男に聞いた。

“ここのマスターですか?”

男は返事するのも面倒なのか、酒棚を指差した。

“酒が欲しいなら、あっちの棚にある物を取りなよ。
売り物にもならない品だけど……好きにしてくれ。”

男の言葉を聞いた大きな人は、棚から一番酒がたくさん入っているビンを取り
男の隣に座って、ビンのまま飲み始めた。
ゴクンゴクンと音を出しながら、美味しそうに酒を飲み干した大きな人は、口を開いた。

“マスター、この街に何があったのですか?”

渋く低い声に、眠気が飛んだのか、男は目を開いて返事をした。

“知らないのか? 長い間、外国にでも行っていたのかね……”

男は隣に座っている大きな人の顔をチラッと見てから、ゆっくりと席から立ち上がった。

“顔を隠している事から見て……何か訳がある様だね。
つまみ無しに酒を飲むのは、体によくないね。チーズでも食べるかい?”

“頂きます。”

男はチーズの固まりを出した。
大きな人は、用心深くチーズにゆっくり手を伸ばした。
チーズを取る手は、相当な苦労をして来た様で、指は太く、肌は硬そうだった。

“カプラ達が消えた後、この街とダンジョンを分けていた結界が壊れたんだよ。
それで……日が暮れると、モンスターが溢れ出してしまってさ……
昨日も老婆が一人さらわれたのさ。”

マントを被った大きな人は、悲しそうに聞いた。

“ここに、カプラ職員は……いないのですか?”

男は舌を打った後、話を続けた。

“ここだけじゃない。
プロンテラ、モロク、ゲフェン、アルベルタ、カプラ本社があるアルデバランにも……
カプラ職員はいないよ。
たまに、カプラGTという移動型の機械が来るけど、街の警戒費を徴収しに来るだけだよ。
お金を払っていた最初の頃は、ダンジョンの前で見張りをする真似をしていたけど、
今となっては……お金だけ取って行くだけだよ。
そういえば、あの機械野郎が来る頃になったけどな……”

男の話を聞いた大きな人は、ボソボソと話した。

“それじゃ、昔のカプラが戻って来たとしても……仕方がないな……”

男はこれを聞いて、また舌を打った。

“外の老人達は見たかい?
老人達は、昔のカプラが戻ってきてくれると、変な期待を持って
待ち続けているんだ。
でも、カプラ職員達が戻ってきたところで、変わりゃしない。
どうせ、この街には死にかけた老人ばかりで、働ける者もいないし……”

男は顔をしかめ、吐くように呟いた。

“カプラカプラ……くそったれだ!”

“……”

大きな人は、何も言わずに酒を飲んだ。
そして、シーンと沈黙が流れた。しばらくした後、機械音が聞こえてきた。

- ピピ……カール・バステン、76才、男。
身元確認完了。
定期税金の滞納を確認。
本社までの同行を要求する。

それは、カプラGTの声だった。
これを聞いた酒場のマスターの顔が暗くなった。

“ジジィ……税金くらいちゃんと払っときゃいいじゃないか……”

男は酒をグラスに注いだ。
大きな人は男に聞いた。

“税金を払ってない人は……どうなるんですか?”

“決まってるだろう? 本社まで連行され、労役をさせられるか、家を奪われるか……
どっちかになるんだよ。”

“あの老人を助ける事は出来ませんか?”

“あんなジジィを一人助けたところで、何も変わりゃしないだろう?”

男は気分が悪くなったのか、酒をゴクゴクと飲み干した。
外からはカプラGTの声が聞こえ続けた。

- カール・バステン。
抵抗する場合は、強制執行に移る。

カプラGTの言葉が終わったとたん、金属のぶつかる音が聞こえた。
多分、老人がカプラGTに何かを投げたのだろう。

- カール・バステン。
カプラGTを攻撃する行為は、重い処罰に当たる不法行為だ!
これは国家財産である。命令に従わない場合は、ここで射殺する場合もある。

老人は命令に従っていないようだ。

- カール・バステン。
武器を捨てろ。これは国家の財産だ。
命令に従わないと、射殺する。

酒場の男は、射殺すると聞くと同時に、グラスを投げて叫んだ!

“あの鉄クズ野郎ー!! 身の程も知らず、ベラベラ喋りやがってー!!”

男は壁にかけられたライフルを手に取り、酒場の外へと飛び出た。
マントを被った大きな人は、男を後ろから見て、酒を飲むだけであった。
男は、ライフルでカプラGTを狙い、叫んだ。

“国家財産だと? ハァ?
いつからお前らが、国家のものになったんだよー!! ハァ?”

- ピピ……チャールズ・レイブン。 38才。男。
身元確認完了。
27ミリのライフル武装。
装甲の破壊率は…… 0.001%。致命的損傷確率はゼロ。
戦力分析完了。
直ちに、武装を解除し投降せよ、チャールズ・レイブン。

“ふざけやがって……”

呟きと同時に男のライフルが火を吹いた。
銃声に驚いた老人達は、自分達の家に戻り、ドアを閉めた。
ライフルの弾は、カプラGTの装甲にかすり傷さえも付けられなかった。
トッと弾が落ちる音がした後、カプラGTの識別装置のランプが赤く光った。

- 装甲破壊 0、損傷 0、攻撃に応戦する。
カプラGTは巨大なガトリングガンを出した。

‘タタタタタタタタタタタ……’

秒当り3発の、割と遅めの発砲だったが、その威力は恐ろしいものだった。
男は、雨粒の様に降り注ぐ銃弾の間を、ジグザグに走りぬけ
ライフルの銃底でカプラGTの顔面を強打した。
しかし、エルニウム合金の装甲を持つカプラGTの顔面はとても硬く
ライフルの銃身は跳ね返されるばかりだった。
男は、カプラGTの目が届かない坂の下に飛び降りた。

“機械がここまで降りるのは……無理だよな!! ハハハハッ!”

意気揚々と叫んだ男は、意外な展開に慌てるしかなかった。
カプラGTは、男を追うミッションを終了させ、次のミッションを実行しようとしていた。

- 街全体がカプラセンターに抵抗する事から、敵意を持っていると判断。
街の全焼許可を求める。

カプラGTは街の全焼許可を、カプラセンターに要求していたのだ!
それを聞いた男、レイブンは坂の上に登って叫んだ。

“誰が燃やさせるかよ!!
ふざけるんじゃない!!”

許可が下りたのか、カプラGTのガトリングガンの下から、火炎放射口が出てきた。
カプラGTは既に、この街を燃やす準備を終えていた。
男、レイブンは、先の銃撃で老人達が家の中にいる事を思い出して、叫んだ。

“家の中には、老人達がいるんだ!! 何をするんだ!
このクソドラム缶めー!!”

- カプラ本社からの承認の受領完了。街の焼却にかかる。
先ずは、税金徴収を拒否したカール・バステンの自宅。

レイブンは石を拾い、カプラGTの頭に投げた。「カーン」と乾いた音と共に
カプラGTの頭が大きく揺らいだが、カプラGTは構わずに焼却の準備をしていた。
少し移動して、火を放つ最適な場所へ移動したカプラGTは
やがてカール・バステンの家に巨大な炎を放った。

“やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!”

レイブンの叫びは、空しく響き渡った。
カプラGTの火炎放射器から放たれた炎は、あっという間に家を覆い燃やしていた。
レイブンは、家の中にいる老人を救出しようと、家の中に飛び込もうとした。
その時、カプラGTの銃がレイブンの方を向いた。

- 動くな! チャールズ・レイブン!!
一歩でも動いたら、公務執行妨害と見なし、射殺する!

カプラGTのガトリングガンは、レイブンの額に狙いを付けていた。
レイブンは、体が震える程の怒りを感じていた。
しかし、恐ろしい力を持つカプラGTの前では、弱い人間に過ぎないレイブンは、
そのままカプラGTに屈服するしかなかった。その時だった。

“……”

- ピピ!

炎から、マントをかけた人が、老人を抱きかかえて出てきた。

“あなたは!?”

レイブンはその人が、自分の酒場で酒を飲んでいた旅人だとわかった。
カプラGTは新しい敵の出現に識別装置を働かせた。

- ピピ……名前……不明、性別……不明、年齢……不明
データベースに登録されていない存在。
カプラセンター指揮制御室は、身長210センチ、体重109キロの
身元不明の人のデータを検索してくれ。

カプラGT が情報把握の為に慌てている間、マントの人は
あっちこっちから老人を救い出し、その辺の空き地に下ろし、レイブンに言った。

“幸い、怪我は酷くありません。
この方々を安全な場所へ……”

レイブンは老人達を安全な場所へ移動させ始めた。
カプラGTは、レイブンに向けていた銃をマントの人に向けた。

- 名前、性別、年齢を明かしなさい。
でないと、敵と見なし、戦闘モードに入る。

マントの人は、カプラGTの方へとゆっくり近付き始めた。

“年齢は…24……”

- ピピ……入力完了

マントの人は一歩近付く度に、一つずつ自分の事を言っていた。

“性別は女性……そして、かつての私の呼び名は……”

マントの人の……彼女のマントが滑らかにすり落ちた。
そして、繊細で美しい筋肉に包まれた巨大な肩が眩しく光り、
全身から独特なオーラを放つ彼女の姿が現れた。
マントの人を見ていたレイブンと、老人達は、皆してある人の名前を叫んだ。

“あ……あなたは!!”
“カプラ!……カプラテーリング!!”
“本当にカプラが戻ってきたのか!”

カプラGTの識別装置のランプが激しく点滅し始めた。

- 最優先ターゲット発見! 危険レベル 10。
カプラテーリングを発見! 指揮制御室の緊急対応を願が……

カプラGTの通信は、そこで切れてしまった。

“グシャーッ”

物凄い音と共に、カプラテーリングの巨大な拳がカプラGTの顔面を潰した。
2メートル50センチもの巨体を誇るカプラGTは、そのままぶっ飛ばされた。
やっとバランスを取り戻したカプラGTは、指揮制御室へと慌てて通信を試みた。

- ピピ……危機レベル10、危機レベル10、緊急事態……

カプラGTは、恐怖を理解できない機械だ。
なのに、カプラGTの胴体が震えていた。
カプラテーリングが、ゆっくりと近付き、カプラGTを見下ろした。

“さっきのは、お前らのお陰で名前を失われた、私の怒り……”

カプラGTの顔面に、カプラテーリングの影が映った。

“これは、私の姉妹達が流した血と涙……”

金属が壊れる音と共に、カプラテーリングは足でカプラGTの胸を貫いた。
カプラGTの胸を覆っていた70ミリのエルニウム装甲は、紙くずの様に散ってしまった。
カプラGTは慌てて言った。

- もうすぐ、本隊がここに……私を倒しても無駄だ……

それを聞いたカプラテーリングは「ふっ」と笑った。
そして、カプラGTに命じた。

“カプラGT。私の言葉を本社に届けなさい。”

カプラGTは音声認識センサーを作動させた。
そして、カプラテーリングは喋り始めた。

“生きているカプラ職員が、私一人だと思わない方がいい。”

カプラテーリングの言葉は、カプラ本社の中に流れている。

“お前らを倒すには、指一本で十分だ!”

カプラGTの識別装置のランプが、狂った様に点滅を繰り返していた。
カプラテーリングの指は、ゆっくりとカプラGTの電源に近付いた。
そして、電源OFF。

- ウィーン……

モーターの駆動音が止まった。カプラテーリングはレイブンに振り向き、聞いた。

“アルデバランはどっちですか?”

レイブンは、訳のわからない涙が込み上がるのをやっとの思いで押さえながら、
北西を指差した。

“すぐに会おう……姉妹達よ……!”

- 続く

SEO [PR] !uO z[y[WJ Cu